井原 幸治先生
国際教養こども学科
マーケティング分野の中でも、とくに未来社会の学問といわれている「ソーシャルマーケティング」について研究しています。ソーシャルマーケティングとは、一言でいえば、「誰も損をしないビジネス」です。これまでの競争がベースのビジネスモデルとは違い、社会問題をビジネスチャンスとしてとらえ、それらの諸問題を解決することをビジネスにして企業が成長していくというモデルの研究手法です。社会には、SDGsで言われるような貧困、環境問題など数多くの問題があります。世界には、これらの問題を解決することでビジネスとして大きく成功した事例があります。例えばアメリカでは、2010年に大学生が起業したRent A Goatという会社があり、企業の依頼に対してヤギを貸し出し、除草を行うという事業を行っています。現在では約20ヶ国に事務所があり、2019年には日本法人が設立されるなど、全世界で500億円という売上規模にまで成長しています。また、バングラデシュのグラミン銀行は小口金融(マイクロファイナンス)で成功しました。これは、従来のように企業活動や庶民の生活を支えるために貸し出すものではなく「がんばる人にお金を貸す」というものです。「農業の道具を買うためだったら担保なしにお金をどんどん貸して、生産から販売までを支援する」という仕組みを作り、パッケージとして提供したことで、バングラデシュのナンバーワン銀行になりました。ビジネスにおけるこういった取り組みは「負け組が出ない、受益者のみの新しいマーケティング」です。私がサラリーマン時代に海外現地法人で社長をしていた経験なども踏まえ、我々のオールドエコノミー世代が抱えてきた「競争」と「投資」とは180度異なる「新しいビジネスの在り方」を授業で教えています。この学問を学ぶことで、21世紀の主役である学生諸君にとって、日本経済の持続的成長に向けた新しいビジネス観が身につくと思います。
東大阪大学は、こども学部に「こども学科」と「国際教養こども学科」があります。とくに国際教養こども学科では、こども学をベースに多言語の語学、国際教養、経済経営などを学ぶことができます。大学の学問領域には様々な社会問題が関わってくることから、授業では、子どもの貧困や地球温暖化問題などを持続可能なビジネスチャンスととらえ、誰も損をしないビジネス構築を行うというテーマで学びを深めています。海外駐在経験を持つ教員が多数在籍していますので、環境問題であるとか、こどもの育成であるとか、SDGsに基づく社会の仕組みづくりに大きく関与してきた経験を、各教員が授業で教えています。このような新しい学問分野を学べる大学は、未だ多くないと思いますので、21世紀のニュービジネスの主役として活躍したい学生には、魅力的な大学だと思います。また、本学では入試制度を変更することで、留学生、在日外国人および渡日帰国生と言われる帰国子女も積極的にとっていることも特徴です。第二言語が話せる多様な文化的背景を持つ学生が多く集まり、日本人学生も一緒になってゼミの研究や発表といった様々な取り組みをしていく中で、お互いに視野が広がり、世の中を冷静に見る力や国際感覚が養われていきます。
国際教養こども学科には、多様な学生がいます。日本人学生を中心に、留学生や在日外国人、渡日帰国生も多数在籍しており、多様な文化や言語と日常的にふれあうことができます。その中でも、卒業後に海外の日本人学校の教員を希望する学生や、途上国でスポーツの指導者を目指す学生もいます。また、日本で就職してインバウンドの海外の観光客に接する仕事がしたいという学生も多数います。異なる国籍の学生たちが、学びを深めあう仲間として、お互いを尊重できる環境を作るために、偏見や意識の違い、政治とその国に対するレッテル貼りといったものを取り除く必要があります。そのために、「一人ひとりが地球上で生きている以上、やっていることはみんな一緒で願うことも一緒なのだから、よく話し合おうよ」ということを常日頃から伝えています。授業では、多様な経験してきた学生に母国についての話をさせています。すると、日本人の学生がいかに日本のことについて知らないか、という気付きが生まれます。さらに、日本は本当に先進国なのだろうか、ということを学生たちに調べさせています。「調べてみたら、ある分野では、世界最低レベルの国だった」という、日本社会の実情を知ることにつながります。これが、オールドエコノミーの過去の業績を懐古するのではなく、これから学生たちが担っていく21世紀のビジネスを考えるきっかけになってくれたらと思っています。こういった経験から、勉強することの重要性と、学問は自分の選択肢を広げるんだということを、この4年間を通して学んでもらいたいですね。
1年生の時点では、将来の夢や目標が漠然としていて、卒業後の明確な進路を描けていない学生が多くいます。作物は、冬の間に肥料をきっちりとまいておけば、春になると、それまでに蓄えた栄養によって一気に成長します。これは、人間にも同じことが言えます。1年生のときに、どれだけ学問の楽しさにふれ、知らないことを知る楽しさを見出せるか、ということが重要になります。年次が上がって選択科目が増え、自分の好きなことを深く学ぶことで、知らないことを知る楽しさを実感していきます。そうして、2年生から3年の終わりにかけて大きく成長していきます。例えば、学生がフードビジネスについて興味があって、「サプライチェーンのここがおかしいんじゃないの?」と問題点を見つけられる段階までくると、会話力、コミュニケーション力が1年生のころとは比べものにならないほど成長しています。ゼミに入る頃には、さまざまな社会問題について、学生同士の討論や研究発表を通じて、自身の適性の自覚や問題意識も芽生えてきます。このような学生たちの熱い議論を聞くと一人ひとりの成長を感じるものです。こうした過程を経て、自分の将来を決めていく学生の姿を見ることは、教員としてとてもうれしいことですね。
ネパールからの渡日生が入学してきました。あるとき、その学生が「貧困はどうやって解決するのか」ということを日本人学生の前でプレゼンテーションをしたことがありました。そのときの内容が良い意味で想定外でした。貧困を「心」の側面からとらえ、「日本の方が貧困だ、ネパールの方がリッチだ」という内容だったのです。「ネパールには仏教やヒンドゥー教といった宗教があって、心の救いがある。しかし、日本では心のケアが重要視されておらず、ネパールと比べて心の救いが少ないことが分かりました。それは物(お金)の貧困よりもひどいものだと思う」と話したときに、納得感が高いものでした。そして、このプレゼンテーションに刺激を受けた数人の日本人学生たちが、私に「来週発表をさせてください!」と言ってきたのです。そこで、次の授業で一人20分ずつ、発表をさせました。すると、「積極的に仕事を提供できるスキルを身に付け、ネパールで皆さんが働く場を創ることが本当のSDGsになるのではないか」とか、「本当の国際的な平等感というものは、募金活動をして一方的にお金を寄付することではなく、仕事を寄付して、そこで得られた成果を返してもらうということではないか」といった内容を発表してくれました。日本人学生たちがみんな、共通性のある社会問題に意識を向けた内容を話してくれたことに、嬉しさと驚きを感じました。こういった考え方や心が自然とつながっていく様子を見て、これこそが真の国際性になり得るのではないかと思います。お互いの文化や民族といったものを理解することによって友情が芽生え、相手を思う気持ちがニーズになり、そのニーズからビジネスが生まれる。国際性を身に付けた人間同士が、ビジネスの場で共に成長しながら発展していくことによって、社会問題解決につながるのではないかと考えさせられる出来事でした。
東大阪大学は、小規模でとても面倒見の良い大学です。いわゆるマンモス大学のような教育の仕組みではなく、各授業も少人数で、個々の学生の学習理解度に合わせた教育をしています。「こども学部」全体で85人、そのうち「こども学科」が60人、「国際教養こども学科」が25人で運営しています。ほとんどの専任教員は、学生の顔と名前を憶えていますし、学生の性格を熟知して進路指導をしています。さらに、本学ではSNSやメールなどのコミュニケーションツールを活用しており、学生からの相談や悩み、良い報告に悪い報告も、本当に様々な言葉が寄せられます。それに対して一つずつ向き合って、返信をしていくことも私たち教員の仕事だと思っていますし、学生にとっても安心感があるのではないでしょうか。マンモス大学と比べると、みんな家族のような感じです。子育てにはいろいろな悩みがあるものと思います。優秀な子も、そうでない子も、親にとっては、大切な宝物です。本学には、教育の専門家、心理学、または身体の専門家もおりますし、私の場合はこれからの学生が「(社会的な部分で)どういう人生を歩んでいけばいいのか」という、社会背景もお伝えできると思います。ぜひ一度オープンキャンパスに来ていただいて、保護者説明会や個別相談コーナーで納得いくまで教員と話をしていただけたら、うれしく思います。